前回、日本酒の蓋を集めていた話を書きました。
あのとき作ったのは、家紋のような記号が入っているタイプでした。
今回は、もう一方のほうです。文字が入っている蓋。
記事の後半にプロンプト全文を載せています。コピーして貼り付けるだけで作れますし、一箇所を書き換えれば、自分の名字が入った酒蓋もできます。
どんな文字が入っていたのか
集めていた蓋には、記号のタイプと文字のタイプがありました。
前回作ったのが記号のほう。今回はその続きです。
思い返してみると、数としては文字のほうが多かった気がします。
松竹梅。○○正宗。○○鶴。
そういう銘柄の名前が、金属の丸い面にそのまま入っていました。
面白いのは、人の名字が入っている蓋があったことです。
佐藤。鈴木。
日本酒には、蔵元の名字がそのまま銘柄になっているものがあります。
だから蓋にも、その名字が入る。
どこかの誰かの家の名前が、金属に打たれて、全国に配られていく。
一文字だけの蓋もありました。
寿。福。正。
丸で囲まれた文字や、四角の中に収まった文字もあって、あれは屋号のかたちだったのだと思います。
同じような蓋を、手に取っていた方も多いのではないでしょうか。
髭文字という書体
あの太くて、勢いがあって、払いの先がかすれている字。
実はあれ、ちゃんと名前のある書体です。
「髭文字(ひげもじ)」といいます。
歌舞伎の看板に使う勘亭流、寄席の橘流、相撲の根岸流。こういった書体をまとめて江戸文字と呼びますが、髭文字もその一族です。
そして、この一族の中で酒を担当してきたのが髭文字でした。
では「髭」とは何か。
はねや払いの終わりのところに、細い線が何本も残っているのが見えるでしょうか。
これが髭です。
この技法には「いな穂」という名前がついています。稲の穂のように、筆の毛が割れて広がる。
曲がり角の内側に、わざと小さな空洞を作る技法もあって、こちらは「虫食い」と呼ばれます。
墨がかすれた白い筋も、髭文字の特徴のひとつです。
割れた髭の本数を、七本、五本、三本と奇数にして、縁起を担いだものがあるそうです。
七五三です。
ただ勢いよく書いていたのではなく、そこに願いを込めていた。
いつから酒に使われるようになったのかも、少し分かっています。
江戸時代の型で刷っていた頃は、髭文字は全体の二割ほどでした。
それが幕末には五割まで増えます。
明治十年から二十年代になると、酒のラベルといえば髭文字で書くのが当たり前になっていきました。
ただ、髭文字がどこから生まれたのかという起源そのものは、国立国会図書館に問い合わせた記録を見ても「明確に述べた資料は見当たらない」とされています。
分かっていないんですね。
これだけ身近にありながら、出どころがはっきりしない。それもまた面白いところです。
ちなみに今は、新しい銘柄が髭文字を避ける傾向にあるそうです。現代のラベルは、もっと素直な筆文字が主流になっています。
昔の蓋の字を見て懐かしく感じるのは、気のせいではなかったわけです。
子どもの頃はただ「かっこいい字」だと思っていました。
名前も、技法も、縁起担ぎもあった。それを知ったのは、五十年近く経ってからでした。
この字を、AIで作ってみることにしました。
実物とまったく同じではありません。でも、記憶の中の「あの感じ」には、そこそこ近いところまで来ています。
自分の名字を入れてみる
さきほど、蔵元の名字がそのまま蓋になっていた話を書きました。
それなら、自分の名字でもいいはずです。
プロンプトの一箇所を書き換えるだけなので、手間はかかりません。
出てきたものを見ると、これが妙に嬉しいんです。
架空の蔵元がひとつできたような気分になります。
作ったものを、無理に公開する必要はありません。
名字は個人情報です。SNSに上げると、それだけで分かる人には分かってしまいます。
でも、公開しないと楽しめないものでもありません。
印刷して机の上に置く。スマホの壁紙にする。家族に見せる。
それで十分楽しいですし、むしろそのほうが、自分だけのもののような気がしてきます。
名字でなくてもかまいません。
昔の屋号。お店の名前。下の名前。好きな一文字。推し。
孫の名前、というのもいいと思います。
やってみて分かったこと
正直に書いておくと、時間がかかったのはプロンプトを作るところでした。
字そのものは、あっさり出ます。画数の多い字でも崩れません。
悩んだのは、あの「髭」の感じをどう言葉にするかでした。
「筆文字で」とだけ書くと、上品な毛筆になってしまいます。きれいなのですが、酒蓋になりません。
「太く」と言うと、今度はのっぺりした太字になって、勢いが消えます。
欲しかったのは、払いの先が細く割れて散る、あのかすれでした。
書体の名前を出すだけでは足りなくて、線の始まりと終わりがどうなっているのかを、一つずつ言葉にしていく必要がありました。
一度できてしまえば、あとは安定します。文字を差し替えても、同じ調子で出てきます。
大変だったのは作るまでで、使うぶんには難しくありません。
だから、下にプロンプト全文を置いておきます。
なお厳密に言えば、出てくるのは髭文字そのものではなく「髭文字風の筆文字」です。それでも蓋にのせると、なかなかそれらしく見えます。
同じ字でも、AIによって出方が違う
今回いちばん面白かったのは、ここでした。
同じ狙いで作ったのに、ChatGPTとGeminiで、出てくる字の系統がはっきり違ったんです。
ChatGPTは、質感が得意でした。
金が箔押しのように見えます。表面に梨地の細かい凹凸が入り、金属のヘアライン加工まで表現してきます。
筆の線も荒々しくて、毛が割れて散る様子がよく出ます。写真に近い仕上がりです。
Geminiは、形が得意でした。
線が流麗で、払いが一本の長い弧を描いてすっと伸びていきます。
かすれは控えめで、輪郭がなめらか。全体に整っていて、デザインされたロゴのように見えます。
髭文字らしさ、つまり「いな穂」の感じに近いのはChatGPTのほうです。
一方で、字としての読みやすさ、まとまりのよさはGeminiが上でした。小さく縮めても、ちゃんと読めます。
どちらが正解ということはありません。
質感が欲しいのか、形が欲しいのか。それで選べばいいのだと思います。
そして、これは酒蓋に限った話ではないなと思いました。
うまくいかないとき、私たちはつい、プロンプトを直そうとします。
でもその前に、AIのほうを変えてみる。
同じ言葉を、別のAIに渡してみる。それだけで、探していたものが出てくることがあります。
プロンプトの使い方
使い方は前回と同じです。画像が作れるAIを開いて、下のプロンプトを全部コピーして、貼り付けて送信するだけです。
文字を変えるところだけ、説明しておきます。
プロンプトの中に【ここに文字を入れる】と書いてある箇所があります。そこを、入れたい文字に書き換えてください。
一文字なら迫力が出ます。二文字、三文字は縦書きになって、銘柄らしく見えます。
プロンプト全文
# 日本酒の蓋 画像生成プロンプト|文字タイプ
# ※ text の値を書き換えるだけでOKです
text: "ここに文字を入れる"
shape:
form: perfect circle
edge: smooth (NO serrated or jagged edge)
center:
orientation: vertical (top to bottom)
stacking: each character placed directly below the previous
rotation: do NOT rotate horizontal text — characters must be upright
font:
style: hige moji (ひげ文字)
weight: bold / heavy
flourishes: dramatically extended, sweeping decorative serifs that curl and stretch far beyond the letter body — exaggerated and theatrical
brush_movement: strong directional energy, single confident sweep, varying thickness from thick body to tapering ends
ink_texture: dry-brush effect with natural ink feathering, bristle marks, ink skipping (かすれ), and ink spread (にじみ)
impression: powerful, dramatic, impactful — like a master calligrapher's brushwork on a sake bottle
size: LARGE — characters fill at least 70–80% of the circle's height
elements: text only — NO kamon symbol, NO geometric emblem
color:
background:
options: [gold, silver, red, white, black]
selection: random
text:
options: [gold, silver, red, white, black]
selection: random
rule: text color and background color MUST be different — never the same
contrast_examples:
- black on gold
- red on silver
- white on black
- gold on red
lighting:
source: upper-left
effect: soft directional highlight across top-left of circle
sheen: smooth gradient — bright specular highlight at top-left fading to warm shadow at bottom-right
surface: metallic surface reflects light with polished sheen
text_surface: calligraphy text slightly catches the light
feel: polished metal badge with soft metallic reflections — NOT full 3D embossing
layout:
border: thin concentric ring near the edge
negative_space: minimal — text is dominant
style:
type: flat metallic badge
sheen: realistic with soft drop shadow beneath the circle
texture: no heavy texture, no antique patina
output:
background: white or transparent canvas
aspect_ratio: "1:1"文字の蓋には、人の気配がある
記号の蓋を作ったときと、少し感じが違いました。
文字の蓋には、人の気配があります。
誰かの家の名字。誰かが込めた願い。誰かが数えた髭の本数。
七本、五本、三本。
そうやって縁起を担いだ人が、たしかにいたわけです。
その同じ形式を、今度は自分の名前で作れる。
作ったのを見せてくださいとは言いません!
でも、コピペでできるので、作ってもらいたいです。
こんなところから「AIって楽しい」ってなるのかと思うので。
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